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サントリーグルメガイド全国版

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6月号
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2005年6月23日掲載

日本の洋食をリードした老舗のテールシチュー 御茶ノ水 小川軒

「御茶ノ水 小川軒」写真

料理人の研究の賜物がここに結実。このテールシチューを食べずして洋食は語れない。
日本の洋食スタイルを牽引した、文化のパイオニア
 文明開化の風が日本を吹きぬけた明治という時代、小川軒もこの時代(明治38年)に産声をあげている。その頃は、欧米の文化が日本人によって咀嚼され始め、食のスタイルも多彩な変化を遂げた時代であった。シチュー、コロッケ、ビフテキ、ライスカレー・・・。「洋食」の誕生は、日本人の食の幅を広げ、豊かにしただけではなく、いわゆる「なつかしの味」の記憶を舌に残したソウルフードとして今も愛されている。
 しかし、この料理の数々、当時から現在の味が確立されていたというわけではない。例えばシチューは煮込んだ肉と野菜のスープに小麦粉とケチャップ、バターのみを入れたもので、カレーもカレー粉を溶いただけのシンプルなスープ状のものであったという。
 「洋食の創生期は料理人たちも模索をくりかえしているわけですから、ひと言に洋食と言ってもさまざまなスタイルがありました。現在のような奥深い味わいの洋食は、長年の研究と経験の賜物であり、今でも完成形というのはありません」と話すのは、「御茶ノ水・小川軒」の3代目、小川洋さんである。
 「小川軒」が居を構えたのは、当時東京の中心地であった汐留。現在で言うと新橋駅の付近である。新橋駅が現在の位置に建ったのは明治42年だから、「小川軒」の移転に続き、新橋駅もその拠点を移した、ということになる。まさに歴史とともに生きた洋食のパイオニアとも言える。ここは、尾崎士郎、藤原義江をはじめとした著名人や、ジョン・レノン、渥美清など、歴史に名を残すアーティストたちもファンとして訪れたというから、その実力は推して測るべしだろう。
「おいしければ、黙っていても人はついてきます」
 「小川軒」の創業当時から名高いメニューが、「牛尾の赤ワイン煮込み/オックステールシチュー」だ。骨からほろりと崩れる柔らかなテール肉に、店の"顔"ともいえるデミグラスソースをたっぷりと絡めて食す小川軒のテールシチューは、まさに日本の誇るべき洋食と言っていい。できあいなど一切使わない老舗の実力は、ひと口食べるだけで突出した味のレベルを感じずにはいられない。
 「とにかく丁寧にアクをとる、丁寧に炒める、丁寧に煮込む。ひとつひとつの工程と素材選びに手間を惜しんだら、途端に味は落ちてしまいます」。淡々と語る小川さんだが、デミグラスソースは香味野菜と牛スジから10日間かけて仕込む、和牛は産地によって最高の状態のものを厳選する、野菜は農家を指定した有機のものを・・・などなど、想像するだけでも費やす労力と時間は相当なものだ。 
 「確かに手間はかかりますね。いい素材を仕入れようと思ったら、業者や農家との関係性を築くだけでも一苦労です」。笑顔の中にも自分の腕と舌への自信が貫かれた力強さを感じる表情で、小川さんは語る。
 「確かに大変なことですが、和牛の産地や有機野菜を使っていることは、特にアピールすることではないと思っています。産地を指定した和牛は肉質がいいし、有機野菜は味が濃厚で深みがある。素材を選ぶ手間は、小川軒の味を作るプロセスのひとつに過ぎません。お客様の前に供す一皿の料理が全てですし、美味しければ、黙っていても人はついてきますから」
 明治時代からファンを魅了してやまない洋食のひとつひとつは、一皿のシチューを作るために妥協することのない小川さんが作り出す、食の傑作と言ってもいいだろう。

「御茶ノ水 小川軒」写真

創業時からこの名物は今も変わらない。

「御茶ノ水 小川軒」写真

テールシチューはデミグラスソースが利いており、口内でとろける。

「御茶ノ水 小川軒」写真

手間をかけて煮込んだ肉はホロリとほどける。

「御茶ノ水 小川軒」写真

西洋料理を日本風にアレンジしたのが洋食。この店で洋食のスピリッツも味わってほしい。

「御茶ノ水 小川軒」写真

ゆっくり食せば、まさに贅沢な時間が味わえる。

「御茶ノ水 小川軒」写真

3代目小川洋さんが営む「御茶ノ水・小川軒」

日本の柔軟な食文化が生んだ「洋食」の可能性

 「懐かしの洋食」と聞くと、伝統のスタイルを守りつづけているイメージが強いかもしれないが、そのスタイルは前述のように実に多様な変化を遂げている。今でこそ一般的なシチューやカレーも、時代によって味の個性は様々だったそうだ。西洋の料理を日本風にアレンジするという折衷料理だからこそ、洋食は今もなお未知の可能性を秘めたジャンルなのかもしれない。
 食のいいとこ取り、とも言うべく様々な食文化を取り入れる日本の柔軟な食文化は、「小川軒」のメニューを見ても計り知ることができる。シチューやフライといった昔ながらの洋食の他、野菜をメインにした小皿料理のコースや豚の耳から仕込んだコラーゲンと青パパイヤを組み合わせたスープ、五穀米のリゾットといったオリジナルメニューの数々は、フレンチやイタリアン、懐石の要素もあわせ持った小川さんの食への興味と感性がなせる技だろう。 
「もともと小皿料理のコースは、お酒を飲みながらつまみ感覚でいただける洋食を、というお客様の要望に応えて考えたもの。野菜の味がいいので、自然と野菜メインのコースになりましたね。青パパイヤのコラーゲンスープは最近の新作なんです。コラーゲンが肌にいいって言うでしょ?」と、にこやかに話す小川さんのサービス精神も、ファンを呼びこむファクターなのだ。
 「小川軒に伝わる昔ながらの洋食を出すことももちろん、食べる人のニーズに合わせて変化していくのが食文化だと思っています。お客様は何を食べたいのか。その声に耳をかたむければ、料理のアイデアはおのずと見えてくるものかもしれませんね。」
 日本の食文化を牽引する「小川軒」の3代目が作り出す、次の新しい一皿は何だろうか。
 「新橋駅前に小川軒ができたのではなく、小川軒の前に新橋駅ができたのだ」――。とは、「小川軒」の初代、鉄五郎の弁。その言葉が、今の「小川軒」の姿を物語っている。
御茶ノ水 小川軒 (おがわけん)
地図
お店情報

東京都 文京区 湯島1-9-3
[TEL]03-5802-5420
[営業時間]ランチ/平日11:30 〜13:30LO
(土曜12:00 〜13:30)
ディナー/17:30〜20:30LO
[休み]日曜・祝日

メニュー

牛尾の赤ワイン煮込み/オックステールシチュー
4200円(時価)

季節の小皿オードゥブル(4種)  2940円
青パパイヤのコラーゲンスープ  840円
五穀米のシーフードドリア  2310円
カニクリームコロッケ  2500円
ハヤシライス  2300円

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